移住者の声
【番外編】林業は憧れだけではできない。(佐藤大輔さん・三郷町)
移住者プロフィール
佐藤大輔さん(佐藤林業/三郷町)
2009年に佐藤林業として独立した佐藤大輔さんに林業の仕事についてお伺いしました。
“林業”って実際はどんな仕事なんでしょうか?
木の価格が下がっていると言われる今、
普段は見ることがない、林業の仕事現場にお邪魔しました。
林業で独立した佐藤さんの仕事場へお伺いしたのは、大型台風が日本列島を横断した翌日でした。
その日の作業は岐阜県恵那市中野方町の森の中。元々の予定では別の場所で作業の予定でしたが、天候の影響で急きょ仕事場所が変わってしまうこともよくあるそうです。
人工林は人が手を入れ続けないとダメになる
――間伐をしないと森はどうなってしまうんですか?
佐藤さん「人工林をそのままにしていると、光が入らない森になり、その結果、下草が生えず、土壌を支えるものがなくなってしまう。密集した木の根っこも大きな根にはならないから、余計に土が安定しない。木が密集していると雨が降った後、木々の葉っぱから落ちてくる雨粒はとても大きな粒となってしまい、表土がどんどん削られていく。だから、台風や災害があったときに、どうしても土砂災害の危険が増していきます。そんなことがあるので一度人間の手を入れた森においては、多くの場合、人が手を入れ続けないといけない。人の手が入っていない原生林は別です。そこでは人間の人智を超えていると思います」
――今日はどんな作業をやっているんですか?
佐藤さん「今日は台風で倒れた木々を片付けるところからやっています。災害のときは、僕らみたいなのが手持ちの機械を持って被災地に入ればずっと早く片付くと思っています」
林業の世界に入ったきっかけ
――高校卒業後、奈良県の森林組合へ就職したとお伺いしたのですが、なぜ林業の道に進むことにしたんですか?
佐藤さん「高校時代に立花隆さんの『 エコロジー的思考のすすめ』を読んだことをきっかけに、環境問題にとても興味を持ちました。経済活動を含めて、すべての人が環境に対して責任がある、と思ったんです。だから環境に良い仕事をしたい、と思って入ったのが林業でした」
――実際に奈良県の森林組合に入っていかがでしたか?
佐藤さん「正直、普通の会社や組織という感じで、環境に尽くす仕事だとか、そういう空気はあまり感じなかったです。これではいけない、と思いつつも“石の上にも三年”と父親言われたのもあり、四年間はそこに勤めて退職しました」
恵那市へ移住をしてからは再び森林組合へ就職され、その後2009年に独立。独立時から木の駅プロジェクト(間伐した材と持ち込むことで地域の飲食店やお店で使える地域通貨と交換できる林業と地域を振興する公共事業)の立ち上げなど、精力的に活動をされています。
――どうして木の駅プロジェクトを?
佐藤さん「間伐した材を次の利用へ進めていく、というのが一番の想いです。僕は木を生命として捉える、木々を敬う気持ちを忘れてこの仕事をするべきではない、と常々思っています。ただ細い木々は間伐した後、数百円にもならない。この細い木も市場に出すと三百円くらいですよ。大根一本くらいの値段ですね。それだと市場に出す流通コストばかりがかかってしまう。市場に出してもお金にならない木でも次の活かす方法があれば、また違う形があるのではないか、と思っています。木の駅プロジェクトの立ち上げのお手伝いの仕事は全然お金にならなくて、普段の仕事を休んだりしながらやってきました。そのときに全国から人が来てくれたり、地域の人たちにも知られたり。そのときのつながりが仕事にもなったりしています」
――専業でなくても間伐をして木の駅に持ち込むことでお金(地域通貨)が得られる仕組みなんですね。市場での木材の値段ってどうやって決まっているんですか?
佐藤さん「市場での木材の値段は、主に木の太さと長さ(材積)、色や木目の細かさ(材質)で決まってきます。この木なんかは幹が太いですが、中が腐ってしまっているので材木としては売り物にはなりません。紙の材料や燃料用材になります。この木は千円くらいかな?間伐の補助金をもらいながらやっているような感じです。国産材は高い、高いと言われていますが今は普通の木材であれば、外材も国産材もそれほど変わらない値段です。」
理想と現実のギャップ
――独立されてからはいかがですか?
佐藤さん「ずっと世の中に対して息苦しさを感じていたんですね。自然に沿った暮らしをしたい、とずっと思っていました。持続的な暮らしを続けていきたい、というピュアな思いがありました。もちろん、今もその気持ちはありますが、理想と現実には当然ギャップがある。小さい林業をしたい、セミプロのような人が増えてほしい、と思っていましたが、やはり専業じゃないとやれないことがある、と今は感じています。山は大きいですから。トラックやグラップルや運搬車がないと、山の手入れを生業にしていくのは難しさがあります」
――独立されてからの山仕事の依頼はどういう方からお願いされることが多いですか?
佐藤さん「施業主としては個人の方から共有林、森林組合の下請けなど様々です。今は山に入る人が少なくなったため、山で作業をしていると、あんたらどっから来たん?うちの山も見てってよ、と声をかけてもらうこともありますよ。また、今住んでいる恵那市三郷町でも自治会やまちづくり委員会の役などをしていく中で、信頼されて町の神社の手入れなどをお願いされたときは嬉しかったですね」
――地域の方とのつながりも重要な仕事の一部なんですね。林業は冬の間に行うというイメージがあるんですが、季節ごとに仕事の違いはありますか?
「昔は林業、特に間伐と言えば秋冬でしたが、今は年中林業をしています。夏の木は水を上げていて、皮が剥けやすく、腐りやすいんです。だから昔は流通されなかった。ただ、今は流通が早くなったことと、人工で乾燥もできるようになったので夏も木を切る作業をするようになりました。あと雇用の問題もありますよね。一昔前、春夏は、植林や下刈り、枝打ち、除伐(じょばつ)などの育林作業というのが割とあったのですが、今は枝打ち材が安くなってしまったので…。あと雨や雪が降ったら急ぎの仕事とかではなければ従業員の方はおやすみにしています。雨の日は滑りやすくなりますし。僕はなんだかんだ事務仕事をしています。天気で収入が左右されたりもしますね」
――技術の進歩や価格の変化などで林業の仕事も少しずつ変わっていっているんですね。一日の仕事の流れを教えてください。
「8時に集合して仕事を始めます。お昼休みを60分取って、17時ごろに下山することが多いです。休憩はお昼だけじゃなくて、午前中と午後に一回ずつ20~30分くらいの休憩を取ります。動きっぱなしなので体力的に結構しんどいんですよ。暑くて熱中症になりそうな日は早めに下山してますね。林業とひとくちに言っても仕事はたくさんあります。木を倒して、測って、切るのはもちろんですが、その木を林道を通ってトラックまで運んでいくのも労力がかなりかかります。まずは林道を作るところから仕事がはじまることもありますね」
佐藤林業で8月から働き始めた妹尾さんと、隣の市からお手伝いに来ている湯山さんからもお話を聞きました。
――林業ってどうですか?
妹尾さん「おすすめしないですよ。そもそも理想と現実は違うことを知った方が良い」
――えっ!おすすめしない理由はなんですか?
妹尾さん「一番は、死亡率が圧倒的に高い職種であること」
湯山さん「ベテランの方でも若い方でも事故があるからね」
佐藤さん「ひと昔まえに比べて機械化で安全になったといえども、気が抜けない仕事ではあります。休みも少ないし」
妹尾さん「身体的な負担のわりに、賃金などを含めた待遇が悪かったり、体力的にきつかったりで離職率も高い」
佐藤さん「そこまでしてやりたいモチベーションがないと続けていくのは厳しいかもしれません。仕事を辞めて林業をはじめたあとも、工場勤務に戻る方も多くいますね」
湯山さん「雨は降るし、泥にまみれるし、憧れとは違う。その面では面倒くさいことの多い移住にも似ているかもしれません」
――理想と現実は違うんですね。それでも三人が林業をつづける理由はなんですか。
妹尾さん「他の仕事に比べたらましだから。デスクワークは僕は無理だし。自然の中で仕事をする楽しさもあります」
湯山さん「僕も事務仕事は無理だなあ。仕事をした後のboforeとAfterの違いがダイナミックなのはいいよね」
佐藤さん「間伐したところに、太陽の光がきらきらと入っていくのを見るのも好きです。あと間伐をしたところに五年後行くと、本当に豊かになった森と出会えたり。ササユリが復活してたりね」
林業に向いている人、向いていない人
――どんな人が林業に向いていると思いますか?
佐藤さん「楽観的で応用力がある人が向いていると思います。あと何事も自分で考えつつ、体を動かすのが好きな人。身体能力の高さも必要です。逆にどれだけ理想があっても、どんくさい人や頭でっかちな人は向いていないかもしれません。あと僕が大事にしているのは、絶対にケガをしない、という気持ち。山とともに埋もれたらいいなんて考えてたらだめですよね。冗談では済まない」
――最後に林業を目指している方へひとことお願いします。
佐藤さん「若くて学校へ通うお金があれば、岐阜県立森林文化アカデミーなどの林業学校へ行ってみるのもいいかもしれません。森林文化アカデミーで林業を学べば年間150万円くらいは補助金があるんじゃないかな。林業は危険だし、大変な仕事ではありますが、山を持っていて困っている人もたくさんいるので需要のある業種ではあると思います。自然という大きなものを相手にしている。目に見えて景色が変わるダイナミックな仕事ですよ」
(2018.09取材/写真・文章 中田実希)
岐阜県下の林業関係の仕事検索や、支援制度、林業関係者のインタビューなどを見ることができます。
・岐阜県緑の青年就業準備給付金
将来、林業分野へ就業する方に対して、1年間に上限150万円(最大2年間)を準備金として給付する制度です。森林文化アカデミーの学生が支給対象になります。
・ぎふ林業新規担い手支援事業
林業へ新規就業する方を対象にチェーンソーや防護ズボンの購入経費の支援や林業に新規参入する事業者を月額9万円(6ヶ月間)補助する内容などがあります。
・木の駅プロジェクトリーフレット/恵那市笠周地域
恵那市の北側である笠周地域(飯地町、中野方町、笠置町)の木の駅プロジェクトに関するリーフレットです。
・木の駅ポータルサイト
恵那市中野方町で始まった木の駅プロジェクトは全国に広がっています。全国版のポータルサイトです。
・NPO法人 夕立山森林塾
佐藤大輔さんが代表を務めるNPO法人です。林業講習会の実施、林業関係のイベントのお手伝いなどを行っています。
移住(人)図鑑
“移住実践者の声”を、更に広く恵那市内に在住の方々、恵那市に移住・定住を希望する方々に、容易にご覧頂けるように、“恵那移住物語/MEET THE NEW ME”として再編集し、冊子化いたしました。
PDFダウンロード